国が提示した女性の「正しい服装」としての婦人標準服について「こんな見すぼらしいものを」と厚生省生活課職員相手に凄い見幕で叱ったという女学校教論。
大和撫子の誇りや母の使命などという言葉を使ってパーマネントを糾弾する新聞の投稿に対して「女性を玩奔物視した封建的男性の身勝手な趣味」であり「そんな男性は、“相手にせず”と、黙殺するほかありません」と反論した女性。
秋田大空襲の翌日に玉音放送を聞いて終戦を知り、もうパーマネントをかけに来た女性客に「目の前がパーッと明るくなり、夢中になって、涙を流しながらパーマを掛けた」という美容師。
国家への忠誠心を疑われ、批判され、石を投げられても、それでも自分たちが美しいと思う洋装美を手放さなかった都会、地方、農村の一般の人々、美容師やデザイナー、洋裁学校の教師たちがいた。
初めて知ることばかりでとても興味深く、大変読み応えのある素晴らしい本でした。
少しは知ってるつもりでいた戦時中の女性たちの服装や髪型はステレオタイプのものでしかなく、実際にはもっとバリエーションがあって、いち早く欧米の流行を取り入れ、より一層深めようとしていた。
史実を元にしながら、読みやすく、文体は抑制が効いていて、決してドラマティックに書いているわけではないですが、書かれた人々の思いが強く伝わってきて、場面場面が目に浮かぶようでした。
特に上記の秋田の話では、美容師さんと女性客の気持ちを想像すると涙が出てきました。
どんな状況でも美しくありたいと願うことは、どんな苦労を伴っても、誰にも止められはしない。
美しくあるということは本来、生きる活力になりうる、思っているよりずっと根源的に人が求めるものだと思い知らされました。
現代においても、ファッションには様々な側面がありますが、このどうしようもない力は間違いなく軽視されるべきものではないと思います。
「彼女ちには、彼女たちの戦いがあった」最後の一文にも心が震えました。
2022.2.13